Help:原因を管理する

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物事の原因を説明することは、人類の知識の基本的な仕事です。何故虹が出るのか、何故飛行機が墜落するのか。私たちは何故か知りたいことでしょう。ウィキデータにはこれらの質問に対する基本的な答えを提供するための構造があります。

理由について話す一般的な方法は、出来事の連鎖として述べることです。何らかの最初の出来事や状況が別の出来事をもたらし、それが更に次の出来事をもたらし、それを繰り返すといずれは何らかの効果が出る、というように。このモデルは物事を単純化し過ぎることもありますが、これで十分うまくいく場合もよくあります。重要なのは、人間にとって理解しやすいことです。

出来事の連鎖の中で重要なのは最初と最後の原因です。最初の原因、つまり他の事物の動作をもたらした初めての原因は根本的な原因と呼ばれます。最後の原因、つまり何らかの効果をもたらした最終的な原因は直接的な原因と呼ばれます。根本的な原因は「究極的な原因」、直接的な原因は「近接的な要因」とも呼ばれます。事物は直接効果をもたらさない状況や出来事に影響されることがよくあります。このような状況や出来事を寄与因子といいます。理由と寄与因子の違いは、それを除いた場合に効果が防げたかどうかです。防げたなら理由、防げなかったなら寄与因子です。

人々が単に何かの理由について話す場合は、根本的な原因を意味する傾向にあります。このため、また単純性のため、「原因」は理由に関しての主要なラベルとして推奨されます。これは根本的な理由を述べます。

よって、原因を述べる3つの基本的なプロパティは以下の通りです。

理由の不在に関してはdoes not have cause (P9353): expected cause, assumed cause or usual cause absent hereを使えます。

背景

 
米国の死亡診断書における根本的な原因、直接的な原因、寄与因子の記入欄

根本的な原因、直接的な原因、寄与因子というような、原因を記述するための3段階の方法は米国の標準的な死亡診断書の記入方法から来たものです。これは死因に関する構造的データについてのWHOの指針に従ったものです。診断書での人の死因に関する記述は多くの作品や、公衆衛生・人口統計に関する多くの研究の材料となっています。この診断書の手短な概要はDocumenting Deathにあります。CDCのPhysicians' Handbook on Medical Certification of Deathも参考になります。

当然ながら、原因についての研究は生体の記録から遠く離れたところにも及びます。近代の歴史作品、例えば『ja:銃・病原菌・鉄』では、何故スペインのピサロが他のどこでもなくペルーを侵略したのかについて、「直接的な原因」と「根本的な原因」の観点から述べています。前者は銃・病原菌・鉄で、後者は農業と地理的条件です。理由付けは哲学でも中心的な位置を占めます。アリストテレスのような古代の思想家は物事は「四つの原因」の結果であると述べました。近代の哲学は原因を形而上学過程事実に反する条件の視点から調査しています。経営では、特性要因図(魚の骨図)が原因と結果を図上で述べ、製品の欠陥を分析し事故を管理するために使われます。

人工知能やセマンティック・ウェブでも、原因についての知識を述べることは重要です。Processes and Causalityでは、ジョン・フロリアン・ソワがジューディア・パール、ジョン・マッカーシーらによる原因の分析の試みについて顧みています。多くのAIは原因を有向非巡回グラフで管理します。モデルによっては不確実性を管理するために各要素の繋がりを確率化することに重きを置いており、因果関係ネットワークと呼ばれます。

原因と寄与因子を区別する

原因と寄与因子はどう違うのでしょうか。公衆衛生や法学、社会科学や自然科学では、それがなければ結果が生じなかったものが原因、それがなくても結果が生じたものが寄与因子とされます。つまり、あなたが「寄与因子」を避けても結果は生じますが、「原因」を避ければ結果は生じません。この判定法はsine qua non(それなしでは有り得ない)という概念から来ています。これは何かを原因とするための反事実条件的な基礎としても知られています。

これは何かが原因か寄与因子かを判定するための試験です。

それが取り除かれたら、結果は防げましたか。

「はい」→それは原因です。
「いいえ、しかしそれは結果に顕著に影響しました」→それは寄与因子です。

チャレンジャー号爆発事故

 
チャレンジャー号の爆発

1986年、スペースシャトル・チャレンジャー号は打ち上げ直後に爆発しました。何故でしょうか。この事故に関しての権威ある分析、ロジャース委員会報告では事故の原因寄与因子の章は分かれていました。

ウィキデータでは原因は以下のように表現されます。

Space Shuttle Challenger disaster (Q858145)

進化

 
ダーウィンのフィンチ

進化、つまり世代間での生物集団の形質の変化は何故起こるのでしょうか。

この例のように、原因を根本的な原因と直接的な原因に明確に分けられない場合もあります。そこで、どの原因が他より先に起こったかを考えます。これを頭に入れると、進化の原因を表現する方法がより明確になります。

evolution (Q1063)

大規模な進化の原因を説明するのに加え、特定の生物集団(例えば種)、臓器、形質の変化を説明するのにもこの方法は使えます。どの突然変異や遺伝的浮動がその根底にありますか。どの自然要因、または人口要因が直接より適切な個体数をもたらしましたか。

マラリア

 
世界のマラリア発生地

マラリアはマラリア線虫と呼ばれる微生物を蚊が媒介することで起こる病気です。アフリカでは毎年何十万もの命が失われ、何十億ドルもの経済的損失が生じるなど重大な健康問題となっています。これは人間の進化の一面を明確にしました。この病気は貧困、つまり蚊帳や防虫剤、予防薬や治療薬などの対策用品が入手できないことで拡大するのです。

malaria (Q12156)

K-Pg境界

 

なぜ恐竜は絶滅したのですか。

Cretaceous–Paleogene extinction event (Q55811)

南北戦争

 
南北戦争の兵士たち

南北戦争は米国史上最多の死者を出した戦争で、75万人以上が亡くなりました。歴史学者は150年以上この戦争の原因を議論しています。その中心は奴隷と州の権利のどちらが戦争の根本的な原因だったかです、近代の歴史家の合意は、戦争の第一の原因は奴隷で、州の権利は口実であるということです。しかし、一部の著名な歴史家はこれとは反対の主張をしています。

このような主張の競合とその重みは、以下のようにランクで表現できます。この戦争は異なる観点(間接・直接)や程度(原因・寄与因子)で原因を表現できることの長所を示す例でもあります。

American Civil War (Q8676)

避けるべき表現

非常に遠く離れた原因

Universe (Q1) has part(s) (P527) Neptune (Q332)という文は正しいですが、これを「宇宙」の項目に載せるべきではありません。宇宙には極めて多くの部分があります。「宇宙」でそれらの部分を直接述べるより、Universe (Q1) 以下を含む A_1, A_1 以下を含む A_2, ..., A_n 以下を含む Solar System (Q544), Solar System (Q544) 以下を含む Neptune (Q332)のような連鎖によって間接的にその分の一部を示すべきです。

「原因」についても同様です。

Alps (Q1286)の原因はformation and evolution of the Solar System (Q3535)というのは正しいかもしれませんが、全く不適切です。Alps (Q1286)の原因はAlpine orogeny (Q661478)、のように言い、曖昧と感じるなら原因の連鎖をformation and evolution of the Solar System (Q3535)に戻すようにして繋げるべきです。つまり、「原因」は出来事の連鎖の中で極めて遠い効果を繋げるのに使わないでください。常識で判断してください

原因の偏り、特に論争的な出来事

War in Donbas (Q16335075)(東ウクライナ戦争)は、これを書いている時点で進行中で論争的な出来事です。信頼できる出典はこの戦争や他の多くの戦争の原因に反対することが多くあります。

交戦しているそれぞれの国や組織の側に立つ出典は、根本的な原因、直接的な原因、寄与因子について互いに矛盾する主張をすることがよくあります。「原因」プロパティでこれらの主張を反映することは可能です。ウィキデータはランクと粒度が高く強固な情報源で知識の多様性を管理できるようにできています。論争的な主張を推奨ランクにしないこと、適切に出典を付ける、statement disputed by (P1310)のような修飾子の使用を避けるというだけです。一方の側に過剰に肩入れしないでください。

根本的な原因としての寄与因子

南北戦争の初期にアブラハム・リンカーンは反奴隷制の作家ハリエット・ビーチャー・ストウと会い、「それならこれがこの偉大な戦争を始めた女だ」と言ったとされます。しかし、これは「American Civil War (Q8676) has cause (P828) Harriet Beecher Stowe (Q102513) 出典:アブラハム・リンカーン」とすべきということではありません。

ストウは多大な影響を与えた小説『アンクル・トムの小屋』を書き、米国北部の州の情熱を掻き立てましたが、ストウもその本も戦争の根本的な原因ではなく、より強い力がありました。多くの原因の重要性を比較すると、「American Civil War (Q8676) has contributing factor (P1479) Uncle Tom's Cabin (Q2222)」とする方がずっと適切でしょう。

ストウ自身ではなくその作品が上では寄与因子とされていることにも注意してください。戦争の勃発に影響を与えたのは、より正確には本だからです。人間は直感的に、機械は推測的に、著者に原因の役割があったことを知ることが可能ですが、それはここで明示される必要はありません。

問題

完璧ではない

上の例は全て不完全です。チャレンジャー号の爆発では、伝達の失敗が根本的な原因か寄与因子かは出典によって違います。進化では、近代の遺伝工学によって作られた生物の集団は根本的な原因が自然淘汰で、直接的な原因が突然変異と言えるのでしょうか。これは例とは反対です。他も同じです。

完全に正確ではない

例は完全に正確というわけでもありません。南北戦争の第一の原因は奴隷そのものではなく奴隷「への反対」です。また、K-Pg境界の原因は小惑星そのものではなく、小惑星「の衝突」ですし、マラリアの原因は蚊そのものではなく蚊「に刺されること」です。私たちは出来事の観点からしか原因や結果について話せないと考えている流派があります。その流派の者にとっては恐らく「蚊」は「蚊という存在」と解釈され、出来事と捉えるのは適切ではないと思われるかもしれません。

3段階の方法は有向グラフのように、各軸が寄与因子を表し、各端がある因子が別の因子にもたらす凡そのリスクや相関を重みづけるものと比べると、理由を説明するにはより強固な方法でもあります。

トレードオフについての注意

これらの問題は表現性、硬直性、単純性のトレードオフの一部でもあります。3段階のモデルの中でこれらの欠陥を軽減する方法はあります。例えば、ランクや修飾子、制約確認のbotの使用の拡張などです。そうすることでウィキデータを論理的には一貫しているが堅苦しく頑固な原理の繋がりにしないことを保証すべきです。ウィキデータは人間、特に非専門家が一目で理解できるように直感的であるべきです。

関連プロパティ

「原因」「直接の原因」「寄与因子」は以下のプロパティと関連しています。

関連文書

The Metaphysics of Causation
Causal Processes
Counterfactual Theories of Causation